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「賭け」として不公平だった点を一つだけ挙げるとすれば、俺以外の選手は何の為の試合だったのか全く把握しておらず、試合終了まで説明すらされなかったことだろう。
俺たち一軍と「肥だめ」とで試合をして、負けた方の監督が解雇されると共に、チームも解散。そんな恐ろしい条件を賭けた試合だったのだと、全てが終わった後、ベンチで監督と校長代理を前にして、理事長自らから選手に直接伝えられた。皆は半信半疑だったが、翌日には会議室に集められ、学校側から、諸事情により校長代理が更迭となった為、彼が進めてきた野球部強化計画を白紙に戻すという説明があった。それでようやく、事態を把握できたようなものだ。
そもそもこちら側に伝えられなかったのは、監督と校長代理が、結果がどうなろうと揉み消すつもりでいたのと、負けるハズがないという前提でいたからだった。もし今回の賭けを選手も知っていれば、必死になっただろう。けれどもう、後の祭りだ。
一通り憤りや抗議の声を挙げると、皆はすぐさま新たな転校先を模索し始めた。俺たちは学校や監督、チームそのものに対する思い入れがあるわけではない。あくまで甲子園を目指す為だけの関わりでしかなかったから、淡々としていた。良くも悪くも切り替わりは早い。
学校側の対応は至極親切で、「あくまで学校側の事情だから、転出希望者には全力を尽くす」と説明した通り、一ヶ月後には皆が希望した学校へ転入できるよう、きっちり面倒をみてくれた。この点にだけは、皆も満足していたようだ。
「東、お前は知っていたのか？」
説明会があった翌日、俺が寮に戻ると、ロビーではチームメイト達が困惑した面もちで集まっていた。甲子園に向けて最良の選択をして順風満帆だったはずなのに、半年も経たないうちに、想定外の事情で座礁に乗り上げた。戸惑うのも無理もない。
ざわざわとした空気の中に俺が足を踏み入れた途端、ぴたりと静まった。戸惑いの表情を浮かべたまま、皆が俺を見つめている。暫しの沈黙の後、チームメイトの一人が口火を切った。
「だから試合に出ないで、ずっとベンチにいたのか?!」
会議室の中で、俺だけが平然としていたせいもあったのだろう。苛立ちを隠さないで、声を荒げている。しかし俺はそいつを一瞥して、端的に答えた。
「怪我で出られなかっただけだ」
「てめぇ！」
怒り心頭に立ち上がり、詰め寄ってくる。胸ぐらを捕まれたが、それを止めたのは神川だった。
「東にあたってどうする」
小さくため息を吐くと、宥めるようにチームメイトの肩を掴んだ。それに小さく舌打ちして、チームメイトは俺の胸元から両手を離した。俺と神川を睨み付けるように一瞥し、不機嫌さをまき散らしながら、再びソファーに腰を下ろした。
「それよりも東、お前はこれからどうするんだ」
神川に、どこか目星は付けているのかと尋ねられて、俺が「ここに残る」と即答すると、ロビーの空気がざわっとした。
「アイツ等と一緒で甲子園に行けるとでも？」
「監督だって無名の爺さんじゃないか」
「そのチームに負けたんだろ」
俺の一言で、皆は押し黙った。
「こっちのチームは解散だが、別に出て行けって事じゃないしな」
だから残ると続けると、神川は「そうか」と小さく息を吐いた。
「オレは、四国の学校に行こうと思う」
中学時代に、その私立校からもスカウトされていたらしい。今回事情を話したら、向こうの監督に「是非来てくれ」という返事が貰えたのだという。
「オレは、大門監督が移籍するらしい黒駒実業にしようかと思っている」
「ふん、都内なら竜旺一択だろ」
神川の言葉がきっかけとなって、皆は再び「どこに転校するべきか」という談義を始めた。
けれど俺には興味ない話題だし、関係ない。
再び喧噪に包まれたロビーに背を向けて、俺は自分の部屋へと足を向けた。
俺たち一軍と「肥だめ」とで試合をして、負けた方の監督が解雇されると共に、チームも解散。そんな恐ろしい条件を賭けた試合だったのだと、全てが終わった後、ベンチで監督と校長代理を前にして、理事長自らから選手に直接伝えられた。皆は半信半疑だったが、翌日には会議室に集められ、学校側から、諸事情により校長代理が更迭となった為、彼が進めてきた野球部強化計画を白紙に戻すという説明があった。それでようやく、事態を把握できたようなものだ。
そもそもこちら側に伝えられなかったのは、監督と校長代理が、結果がどうなろうと揉み消すつもりでいたのと、負けるハズがないという前提でいたからだった。もし今回の賭けを選手も知っていれば、必死になっただろう。けれどもう、後の祭りだ。
一通り憤りや抗議の声を挙げると、皆はすぐさま新たな転校先を模索し始めた。俺たちは学校や監督、チームそのものに対する思い入れがあるわけではない。あくまで甲子園を目指す為だけの関わりでしかなかったから、淡々としていた。良くも悪くも切り替わりは早い。
学校側の対応は至極親切で、「あくまで学校側の事情だから、転出希望者には全力を尽くす」と説明した通り、一ヶ月後には皆が希望した学校へ転入できるよう、きっちり面倒をみてくれた。この点にだけは、皆も満足していたようだ。
「東、お前は知っていたのか？」
説明会があった翌日、俺が寮に戻ると、ロビーではチームメイト達が困惑した面もちで集まっていた。甲子園に向けて最良の選択をして順風満帆だったはずなのに、半年も経たないうちに、想定外の事情で座礁に乗り上げた。戸惑うのも無理もない。
ざわざわとした空気の中に俺が足を踏み入れた途端、ぴたりと静まった。戸惑いの表情を浮かべたまま、皆が俺を見つめている。暫しの沈黙の後、チームメイトの一人が口火を切った。
「だから試合に出ないで、ずっとベンチにいたのか?!」
会議室の中で、俺だけが平然としていたせいもあったのだろう。苛立ちを隠さないで、声を荒げている。しかし俺はそいつを一瞥して、端的に答えた。
「怪我で出られなかっただけだ」
「てめぇ！」
怒り心頭に立ち上がり、詰め寄ってくる。胸ぐらを捕まれたが、それを止めたのは神川だった。
「東にあたってどうする」
小さくため息を吐くと、宥めるようにチームメイトの肩を掴んだ。それに小さく舌打ちして、チームメイトは俺の胸元から両手を離した。俺と神川を睨み付けるように一瞥し、不機嫌さをまき散らしながら、再びソファーに腰を下ろした。
「それよりも東、お前はこれからどうするんだ」
神川に、どこか目星は付けているのかと尋ねられて、俺が「ここに残る」と即答すると、ロビーの空気がざわっとした。
「アイツ等と一緒で甲子園に行けるとでも？」
「監督だって無名の爺さんじゃないか」
「そのチームに負けたんだろ」
俺の一言で、皆は押し黙った。
「こっちのチームは解散だが、別に出て行けって事じゃないしな」
だから残ると続けると、神川は「そうか」と小さく息を吐いた。
「オレは、四国の学校に行こうと思う」
中学時代に、その私立校からもスカウトされていたらしい。今回事情を話したら、向こうの監督に「是非来てくれ」という返事が貰えたのだという。
「オレは、大門監督が移籍するらしい黒駒実業にしようかと思っている」
「ふん、都内なら竜旺一択だろ」
神川の言葉がきっかけとなって、皆は再び「どこに転校するべきか」という談義を始めた。
けれど俺には興味ない話題だし、関係ない。
再び喧噪に包まれたロビーに背を向けて、俺は自分の部屋へと足を向けた。
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